愛され系男子のあざとい誘惑
54階のバーに到着するも誰もいないし、空いていなかった。やっぱりこんな朝早くから空いているわけないか。仕方がない。一度家に帰ってもう一度営業時間の前に来よう。


そう思っていると後ろから足音のようなものが聞こえた気がした。足音?でもバーが閉まっているのに足音なんて聞こえるわけがない。


でも、どんどんとその足音は近づいてくるような気がして、私は恐る恐る後ろを振り返った。


『えっ?どうしてこんな時間にここに人がいるの』


薄暗い廊下の奥から歩いてきたのは、昨日私を案内してくれた女性。でも昨日とは違い黒のジャージ姿にメガネを掛けていた。


その女性は私の前まで来ると「誰?」と怪訝そうな顔を浮かべて聞いてきた。


『あ、あの・・・私、昨日ここで酔ってご迷惑をおかけした槙野優美と申します。昨日のお代金とお詫びに来たのですがその時間が早すぎましたね。また出直してきます。すみません』


『待って!ねぇ私、今からコーヒーを飲みに行くんだけど一緒に行かない?ちょっと話したいこともあるし』



戸惑う私の腕を掴んで『行こう行こう』と言われ、どうしていいのか分からず結局『はい』と言ってしまい今に至る。結局エレベーターで2階まで降りてきた。


いつも来る場所なのに、なんだか違う場所みたいだった。毎日この店の外から眺めるだけだったコーヒーショップ。初めて中に足を踏み入れた。
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