神鳴様が見ているよ
プロローグ
 夏の真っ青な空に、くっきりとした形の綿菓子みたいな雲。
 入道雲は、神鳴様(かみなりさま)が来る合図。

「カミナリはね、神鳴様っていう神様なのよ」 

 幼い頃、雷鳴が聞こえると、蒼(あお)とふたりで泣きそうになりながら、おばあさんの所へ逃げ込んだ。
「大丈夫よ、怖くないわ。あれはね、神鳴様っていう神様が空で音楽を奏でてるのよ。
神鳴様がドーンドーンって空を叩くと光になって稲妻になるの」
 扇風機の柔らかい風、おばあさんのふんわりと頭を撫でる優しい手と物語を聞くような神鳴様のこと。
「大丈夫よ、眠りなさい。理和(りわ)と蒼が寝ている間に、音楽は終わって、神鳴様は、いってしまうからね。眠っちゃいなさいな、おやすみ、ね」
 大きな神鳴様の音楽が聴こえていても、おばあさんの「大丈夫よ」と「眠っちゃいなさい」のほうが耳に残って、安心して、いつも、いつのまにか、眠りに落ちる。
 そして、言葉通り、蒼と起きる頃には、神鳴様は、どこかにいってしまっていた。
 だから、私は神鳴様が来ると、祖母のその言葉を思い出して、よく眠ってしまう。
 すると、誰かが、上掛けをかぶせて、髪をなでてくれる。
 それが、心地よくて、神鳴様の音楽を遠くで聴きながら、深い眠りに落ちる。
< 1 / 20 >

この作品をシェア

pagetop