いつも、雨
そっと要人の手が、領子の腫れた頬に宛てがわれた。

「……ほっぺた、熱い。腫れてる。奥さまが手を上げられるなんて……ごめんな。殴るなら俺を殴ってくださればいいのに……結局、領子さまを傷つけてしもて……。」


領子は、ふふっとほほえんだ。

「たぶん、わたくしの頬より、お母さまの手のほうが痛いはずよ。……わたくしは平気。そのおかげでこうして夢でも竹原と会えるなら……誰に痛い目に遭わされても、かまわないわ。」


「夢……。そう。……そうですね。夢は、いいですね。」

ぎゅっと、領子を抱く腕に力がこもる。


「ええ。夢なら、かまわないでしょう?……抱いてください。最後に。……いつでも、竹原を思い出せるように。」

目尻に涙がにじむ。


……夢じゃない……。

領子は、要人の体温と、自分の涙のぬくもりに、現実だと確信した。


唇も、指先も、舌も……くすぐったくて、気持ちよくて……すべてを忘れて幸せになれた。

なのに、薬のせいか、身体が思うように動かない。

もどかしい。

いや、それどころか……だんだん意識が遠のいていく。


「竹原。……わたくし……目が……」

「おやすみ。領子さま。いい夢を。……醒めない夢を。どうか、お幸せに。」

「……竹原……。いつか……。」

自分が何を言おうとしたのかすらわからなくなり、領子は眠りに落ちた。







翌朝、普通に目が覚めた。


……何だか喉がかわいたわ……睡眠薬のせいかしら……。


ぼんやりする頭で、領子はむっくりと起き上がった。

……いい夢を見た気がする。

とてもいい夢。

竹原に抱かれる……夢……。

ほろりと涙がこぼれた。


夢でもいい。

竹原に逢いたい

抱きしめてほしい。

抱いてほしい。


そんな願いが、生々しい夢を見させたのだろう……。


「夢でもいいから……。」

そうつぶやいて……こぼれた涙を拭いた。


そして、肌身はなさず身に付けている御守り袋を、両手で包み込んだ……ら……、違和感を覚えた。


硬い?

中身は貴船の縁結びのお守りと、こっそり入手した竹原の髪だけのはずなのに……石でも入ってしまったのかしら。


領子は、何の気なしにお守り袋を開けてみた。

すると中には、親指の爪ぐらいの大きさのギラギラ輝く透明の石が入っていた。

宝石に特別詳しいわけではないけれど、どこからどう見ても極上品のダイヤモンドに間違いない。


……これ……竹原が?

夕べのアレは……やっぱり夢じゃなくて……来てくれたのね……。


これも、いつもの「お土産」なのかしら。




「……一生……大切にするわ……。」



お守り袋にそっと戻した。

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