いつも、雨
「まあ、とりあえず病院には行こうな。妊娠してへんって証明してもろたら、お母さんの怒りも多少はおさまるやろ。……お母さん、竹原に、えらいきつい物言いしはってなあ……。竹原、大学を辞めて、東京を離れる気になったみたいや。」

「え……。」


中退するってこと?

そんな……。

そこまで追い詰めたの?


呆然とする領子に、恭風はネチネチと当てこすった。

「……竹原が東京におるかぎり、あんたが学校行くふりして竹原にこっそり逢いに行くかもしれんって、お母さん、心配でしょうがないねんわ。……かわいそうになあ。中退と卒業じゃ全然違うで。……まあ、今みたいに、自分で会社やってるぶんには、学歴は関係ないかもしれんけど。」


「妊娠してなければ……お母さまは、竹原を許してくださるでしょうか。……せめて大学を卒業するまで……東京に居ることを……。」


領子の言葉に、恭風は顔をしかめて、首を横に振った。








その夜。

とても眠れそうにない領子に、ねえやは天花寺夫人の睡眠剤を飲ませた。

強制的に、領子は睡眠の淵に引き込まれた。


完全に意識が途切れた……その後……


暗闇で、領子は愛しいヒトの声を聞いた。

「領子さま……。」


「……竹原?」


夢か現かよくわからない。

でも、身体が動かない。


金縛り?


ぼんやりと横たわったままの領子のすぐそばに、要人が座っていた。


手を伸ばしたいのに……動かない……。

夢なのね……。

わたくしの心が……竹原を求め過ぎて……見せるのね……。


「抱いて……」

言葉にならない声が口から出た。


要人の目が少し細くなったのが、暗がりのなかでもわかった。


真っ暗で見えないはずのに、妙にハッキリ見えるのも、夢だからかしら。


「お身体は……大丈夫ですか?」

大好きな低い声をしっかり聞きたくて、領子は起き上がろと、身体に力を入れた。


でも、やっぱり動かない……。

夢って、不便だわ。


手を伸ばしたい。

近づきたい。


「お願い。抱いて。……妊娠できなかったの。……竹原の子供……欲しかったのに……。」



要人が、領子の半身を抱き起こして、ぎゅっと抱きしめた。



ああ……。

竹原の温もり……。


ずっと……こうしていてほしい……。


わたくしの望みはそれだけなのに……。
< 115 / 666 >

この作品をシェア

pagetop