いつも、雨
初めて会った時には、よくわかってなかった。

いや、仲間の左官屋(さかんや)に教えられても、やはりちょっと信じられない。

こんなにもかわいらしい……子持ち出戻りだと言われても、どう見てもお嬢さんのえりちゃんが……悪名高いあの竹原要人(たけはらかなと)のお妾(めかけ)さんだとは……。


……カネで買われたんやろか……。


たまたま一夫の腕を気に入ってるらしいが、 要人とは形式的な話しかしたことがない。

一夫は、世間の噂レベルでしか要人のことをよく知らないし、個人的なことは知ろうとも思わない。


だが……要人の本妻の佐那子が、自分たち業者に対しても、いつも笑顔で優しい気遣いを見せていただけに……何とも言えないモヤモヤは残る。


奥さんは、えりちゃんのことを知ってはるんやろうか……。




すぐに領子(えりこ)は、お盆に茶碗や茶筅をセットして運んで来た。

少し遅れて、キタさんが鉄瓶でお湯を持ってきた。


略式ながら美しいお点前でお茶を点てると、領子は一夫の前にお茶碗を置いた。


「どうぞ。……お作法とか気になさらず、召し上がってください。」

「おおきに。お点前ちょうだいいたします。」


太い指、分厚い手、短い腕……およそ、作法とは縁のなさそうな武骨な雰囲気なのに、一夫はむしろ完璧な作法でお茶を飲み、茶碗の縁を指で拭った。


「……ああ、美味しいわ。えりちゃん、お茶、点(た)てるん、上手やなあ。懐かしい……ええ味やわ……。」

一夫は笑顔でそう言った。


領子もまた笑顔を見せた。

「そうですか?……もう1杯、点てましょうか?……宇賀神さん、茶道をご存じなんですね。」


「ほんま?ほなもう1杯だけ。おおきに。……知ってるゆーほどは知らんで。小学校で飲み方だけは教わったから。……その頃は、死んだおばあちゃんが毎朝、茶を点てて飲ませてくれはってなあ。懐かしいわ。」


一夫の瞳が遠くを見つめ、少し潤んだ。
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