いつも、雨
その日、一夫が来たことを、領子は要人に言わなかった。

要人に言えば、また、当たり前のように費用の負担をしてしまうのだろう。

……それがわかりすぎるほどにわかるだけに……領子は口を閉ざした。





3日後の朝、一夫が意気揚々やって来た。

「床柱の奥の壁から可動式のフックをこう、柱の中央部まで回してくるっちゅうのはどうやろ?あんまり重たいのは無理やけど。」


そう言って見せてくれたモノは、蝶番(ちょうつがい)に太くて長いフックが取り付けてあった。


「……すごいわ。こんなものがあるんですねえ。」


一夫は頭をかいた。

「いや……ないから、作ってきてん。うちの若いもんに溶接の巧いんと、金属加工が得意なんが居たんですわ。そいつらの合作。」

「まあ……。ありがとうございます。これなら、兄も文句を言いませんわ。」

感嘆する領子に一夫は満足そうにうなずいた。

「あー、よかった。ほな、ちゃちゃっとつけるわ。」


言葉通り、一夫はあっという間に新しい器具を取り付けた。


領子はその間に庭に出た。

一足先に満開の彼岸桜を一枝切って戻ると、春慶の小ぶりな掛花入れに活けて飾ってみた。


「……へえ。いや、めっちゃいいわ。えりちゃん。春やなあ。」

道具を片付けていた一夫が感心して褒めてくれた。


「宇賀神さんのおかげですわ。ありがとう。……あら、待って。せめて、お茶でも飲んでらしてください。」

そう言って領子はキタさんを呼ぼうとした……ら……

「お茶、もらえるんやったら、えりちゃん、お茶たててーな。」

と、一夫がねだった。


驚いたけれど、領子はうれしそうにうなずいた。

「喜んで。すぐに準備しますね。」


「あ、道具とか適当でええで。これから炭、入れるとか、待てへんしな。」

遠慮なのか、どうでもいいのかよくわからなかったけれど、領子は一旦廊下に出たのに、ひょこりと引き戸から顔を出した。


……子供みたいやな……。

一夫は、逢うたびに領子にかわいらしさを感じ、愛しさを覚えた。


「お急ぎですか?」

「まあ……これから役所寄って、現場行かんとな。」

「わかりました!少しだけお待ちになって。」


タタタタ……と、軽やかな足音が遠のいて行くのを、一夫は心地よく聞いていた。
< 331 / 666 >

この作品をシェア

pagetop