いつも、雨
領子は無言で要人の腕から這い出した。

そしてシャワーを浴びることすらせず、黙々と服を身につけた。



……怒ってるのか?

いや、たぶん、拗ねてるんだな……。

要人は、ご機嫌を取るべきか……少し放置して頭を冷やさせるほうがいいのか……領子の表情を見ながら、しばし考えた。



……観察されてる……。

領子は要人の視線から逃れるように背中を向けた。

「……帰ります。」

それだけ言って、領子は本当に出て行ってしまった。


オートロックの鈍い金属音が響き渡った。


……参ったな……。

ずっと我慢してたのに……失敗した。

どうせなら、ちゃんと嫉妬していると言うべきだった。

たぶん、俺の焼き餅を伝えて、宇賀神くんを家に招き入れる危険性を説いて、もう辞めてほしいと懇願すべきだったのだろう。


変なプライドが邪魔をしたかな……。

とりあえず……数日置いてから、謝るか……。


要人はくしゃくしゃと髪をかきむしった。






数日後。

恭風は、決意を固めて、領子のもとへと赴いた。

「やっぱり、どうにもこうにも堪忍ならん。領子。ココを引き払い。百合子も一緒に、東京に帰るで。」

「……そんな……せっかく百合子も、こちらの生活に慣れて参りましたのに……。今さら、東京に戻る気はありません。」

領子は兄の言葉に逆らった。


恭風はカッとした。

「あかん!戻るんや!これ以上、ほっとけんわ!このままやったら、あんただけやのぉて、百合子にかて悪い影響出るわ!柄の悪いヤンキー上がりの土方(どかた)まで出入りするようになったらどうするねん!」


領子は、ちょっと笑った。


それがますます恭風の気に障った。

「何がおかしいんや!」

「……あら、ごめんなさい。でも、お兄さま。土方と大工さんは、全然違いますのよ。確かに、土方のかたがたは、荒々しいかたが多いようですが、大工さんは家に上がり込んでお仕事するから、身なりにも言葉遣いにも気を遣ってらっしゃるそうよ。……宇賀神さんも、見かけは武骨ですが、よく気の利くイイかたですわ。……お兄さま、いろいろ誤解なさってらっしゃいますわ。」


領子の言葉に、恭風は泣きそうな顔になった。


「領子……お前……」


あかん……。

もう、手遅れや……。

堪忍……。

竹原、堪忍やで……。



「お兄さま?」


不思議そうな領子に、恭風は言った。


「……知らん。好きにせぇ。……もう、妹やと思わへん。わしとも、竹原とも、縁を切ってくれ。勝手に生きてくれ。」



そこまで言われて、領子は初めて悟った。



……意地を張りすぎたことに……。






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