いつも、雨
要人は、領子の髪を手櫛で整えてやりながら、うなずいた。

「……外聞が悪い、と憤慨なさってました。……私も、そう思います。」


すると領子は、首を傾げて……じっと要人を見た。

「ねえ?竹原……妬いてるの?」


ストレートにそう尋ねられ、要人の顔から表情が消えた。

笑って誤魔化すことは簡単だった。


でも、……ずっと胸に抱えていたモヤモヤが、行き場を失った嫉妬心が、黒い悪意の塊となって、口をついて出た。

「私が?まさか。……彼はイイ職人ですが、貴女には相応しくない。釣り合いません。妬く価値もない。……むしろ、心配しているのですよ。悪しき噂を立てられては、領子さまの評判が悪くなってしまいます。」



領子は唖然としていた。

要人らしくない言い草だった。


……どうして……そんな言い方をするの?

竹原……かつて、同じようなことを言われて……そんな考えかたがどれほど愚かしいか、わかっているはずなのに。

忘れたの?

それとも、変わってしまったの?

……竹原……どうして……?



何も言わずとも、領子の瞳が自分を責めていることに要人はすぐに気づいた。

しかし、吐いてしまった言葉はなかったことにならない。

否定する気もない。



要人は、低い声で静かに言葉を足した。

「信じていますから。私は。……領子さまが、今さら、ご自分を貶めるような火遊びをされるなんて、これっぽちも思っていませんから。」


しかし、要人の気持ちは領子には伝わらない。


領子は、ただただ悲しかった。


信じているって、口では言ってるけど……それって、なんだか、違う気がするわ。

いいえ。

確かに、かつてのわたくしは、竹原と似た価値観だったかもしれない。

でも、その頃の竹原は、むしろ、今のわたくしに近かったのじゃないかしら。


ヒトとヒトの魂の触れあい、心が共鳴し合う、素敵な時間を過ごせる相手に対して、釣り合いなんて関係ない。

出自や社会的地位が違うヒトとは関わってはいけないの?

それじゃ、わたくしと竹原の関係も否定してしまうことになるじゃないの……。
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