いつも、雨
「……仲人?……佐那子は引き受けたのか?」

「いえ。お仲人のお話はお断りされました。……主筋のお姫さまの仲人になれる身分ではない、とのことでした。社長には、天花寺さまに相応しいお仲人を紹介してほしいと仰ってました。」

原の眼鏡の奥の瞳がふてぶてしく笑いを含んだ。



……なるほど。

佐那子の言う通りだ。

さすがだな……。


物事の筋道をあるべき方向へ導くふりをして、領子と顔を合わせる機会から逃れたのだろう。


……本当に、賢い、できた妻だよ……。



原には、要人が心底いやそうな顔をしているように見えた。


しかし、驚いたことに、要人はうなずいた。

「わかった。……電話では、さすがに失礼だろうか。……すぐ行く。」


原にそう言いながら要人は羽織を脱ぎ、簡単にたたみながら一旦奥へ行った。


しばらくして、要人が身ぎれいにしてやって来た。




車に乗り込んでから、要人は恭風に電話した。

「おはようございます。竹原です。」


電話のむこうで恭風がわめいた。

『竹原か!ちょぉ、頼むわ!何とかして!……今、来てるんや。大工の親方。留守やゆーてるのに、帰りよらへんねん。どうしよう!』


……へえ。

独りで、押しかけたのか。


さすが……不粋な男やな……。

でもそんな体当たりでぶつかっていける恥知らずなところが、彼の強みなのかもしれない。


……領子さまも……くそっ。



要人は苛立ちを隠して、恭風に言った。

「……どうせうまくいかないでしょう。ダメ元で、やらせてみてはいかがですか?」


『へ?竹原……?それ、どういう意味や……?』


まさか要人がそんな風に言うなんて……。


「……繰り返させないでくださいよ。私だって、納得してるわけじゃありません。……考えるとはらわたが煮えくり返りそうです。が……それが、領子さまの意志なら……涙を飲んで、見守ろうと思っています。」

要人は、くやしそうに、とても納得してるようには聞こえない拗ねた声でそう言った。


さすがに、恭一にも伝わったらしい。

『……へえ……そうか……。まあ、あんたがそう言うんやったら……わしも、静観すべきかいなあ。』

きつねにつままれたような気分で、恭風はそうこぼした。

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