いつも、雨
要人にとって、恭風の気持ちを変えることは簡単なことだった。

……領子さまの決断には、逆らえないけどな……。


自虐的な笑いを隠して、要人は神妙に言った。

「ありがとうございます。……今、そちらに、居るんですよね?宇賀神くん。……彼を電話口に呼んでもらえませんか?」

『え!今?』

「はい。……多少、恩を売ってやろうかと思いまして。」


淡々と言ってはいるが、要人の心中を勝手に察して、恭風はため息をついた。

『わかった。ちょっと待ってや。……』


ドタドタと足音が遠ざかる。

しばらくして、2人分のドタドタが近づいてきた。


……足音だけこうして改めて聞くと……恭風さまと宇賀神くん、似てるな。

2人とも横幅も大きいが、恭風は白くてぽにゃぽにゃ、一夫は黒くてがっちりしている。


いずれにしても、宇賀神くんはイケメンでも金持ちでも、名家のぼんでもない。


それが要人には腹立たしくもあり……くやしいけれど、領子さまの選択が計算ではないことを認めざるを得なかった。


……合うはずがない。

後悔すればいい。

そんな意地悪な気持ちは、もちろんある。

しかし、領子に「苦労すればいい」とは、少しも思うことはできなかった……。



『あの!?社長?わしに用事て、何ですやろ。』

息を切らして一夫が電話に出た。


「おはようございます。親方。家内から話を伺いました。おめでとうございます。恭風さまが、ご結婚を認めてくださいましたよ。」

『えっ!』

一夫は絶句して、……そのまま受話器を持ったまま、恭風に抱きつかんばかりにすがり、謝辞を述べていた。



……泣いているのか……。


ともすればひねくれてしまいそうな心を、理性で矯正して、要人は受話器を耳に宛がい続けた。


恭風は一夫の男泣きに、それ以上イケズを言うこともできず、渋々認めた。


しばらくして、ようやく恭風が電話に出た。

『……これで、ええんか?……あんたは……ほんまによかったんか?』


要人の心が震えた。

「しかたないと思っています。……宇賀神くんなら、領子さまと百合子さまを大切にしてくれるでしょう。私も、彼の仕事をサポートして、領子さまが経済的に不安を抱かれないように腐心するつもりです。……今は小さな工務店の親方ですが、領子さまにふさわしい会社にしてみせますよ。」


領子にカネの苦労はさせないと誓った。

領子が幸せならば、それでいい。

それは、要人のプライドだった。

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