いつも、雨
ぴぴぴぴ……。

目覚まし時計の人工的な鳥の声で、佐那子は目覚めた。


……あら?

パジャマがはだけてる……。

暑かったのかしら……。


ぼんやりする頭でむくりと起き上がって……、思い出した。

違うわ。

要人さんだわ。

あのヒト……帰って来たんだ……。


やだ、どうしよう……。

うれしい……。

すごく、うれしい……。


……でも……私……途中で寝てしまったんじゃないかしら……。


思い出そうとすればするほど、記憶が薄れてゆく。

まるで夢の中の出来事だったかのように……。


……ダメだわ。

わからない。


でも……幸せだったわ……。

それだけは、確かよ。


……なのに、どうして、要人さん、いないのかしら。


怒ってる?

やっぱり、私、途中で寝ちゃったんだわ。


どうしよう……。

謝るのも……変よね……。


ううう……。





再び目覚ましが鳴った。

佐那子は慌てて止めて、ベットから這い出た。


とにかく朝食の準備、しなきゃ。

要人さんと、セルジュくんと……義人の友達、夕べは3人だったかしら?



慌ててキッチンへ向かうと、既に何だかイイ香りがしていた。


「おはよう。美味しそう。何、作ってるの?」


息子の義人がフライパンを持ったまま振り返った。

「おはよう。フレンチトースト。……ツレに食わせてやろうと思って。あ、そや。お父さんが筍ご飯の残りを気にしてたんやけど、俺、夜食に食べちゃってんわ~。ごめん。また作ってあげて。」


……要人さん、そんなに筍ご飯、好きだったかしら。


「了解。お父さんは?」

エプロンをしながらそう聞くと、義人が背後のリボンを結んでくれた。

「出勤したよ。フレンチトースト勧めたけど、いらんってさ。」

「え……。……そうなの……。」

佐那子のテンションが目に見えて下がった。


義人は肩をすくめた。

……とっくに、すれ違いばっかりの、形ばかりの夫婦やのに、まだ、そんな顔をするんや……。

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