いつも、雨
「……さあ。どっちかな。……いや。……たぶん、喜んではいけないのでしょうが……。」

要人の言葉に、領子は首を傾げて見せた。


くすりと笑って、要人は領子に口づけた。

そして、満面の笑みで言った。

「来年、孫が生まれるんです。」

「はあ?……それはどういう……。……義人さん?だって、まだ高校3年生……受験生じゃありませんか。もうご結婚なさるの?」

領子は驚いてそう尋ねた。



……義人ではなければ、中学3年生の由未か、百合子が出産するということになる。

さすがに、それは……考えにくい。



要人の顔が少し曇った。

そして、苦笑交じりに言った。

「残念ながら結婚はしないそうです。が、子供は産むそうです。……ほら、例の、保健室の夏子さん。彼女が、私の初孫を産んでくれると思うと、……問題は山積みなはずなのに、頬が緩むんですよ。」


「……それって、どういう……。保健室のかたは、シングルマザーになられるということですの?……父親は竹原、あなたではなく、義人さんなのよね?……義人さんは……反対されませんの?」


領子の詰問に、要人は慌てて手を振って否定した。


「もちろん俺じゃない。何度も繰り返してますが、夏子さんとは一切関係してませんから。……でもね、本当は、夏子さんがうちの嫁になってくれるのを期待していたんですけどね……愚息が不甲斐ないから、逃げられてしまいました。」


「まあ……本気で仰ってるの?……だって、義人さんよりずいぶんと年上じゃありませんか。」

呆れたように領子が言った。


要人は、領子の髪を撫でながら言った。

「ええ。そうですね。年齢差は如何ともしがたかったようですね。でも、私は本気でしたよ。……まあ、嫁にはなってもらえませんが、授かった命は守ってくださるそうですので……私もできうる限りのサポートをさせてもらう所存です。……でもね、このことを義人は知らないんですよ。」

ニヤリと、要人が笑った。


「このことって……妊娠を?ご存じないの?」

「ええ。夏子さんは、妊娠を隠したまま黙って姿を消す決意をしてらっしゃいます。……義人は、突然、最愛の女性を見失ってしまうわけですよ。……けっこうな試練だと思いませんか?」

「……もしかして、竹原……面白がってらっしゃらない?」


おかわいそうな義人さん……。

領子は心の中で義人に詫びた。

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