いつも、雨
不惑……なんて、嘘ね。

いくつになっても惑わされっぱなし。

どれだけ大勢の人の中でも、わたくしの目は竹原を探し出してしまう。

……くやしいけど……目が離せない……。








その日、領子は広いパーティー会場で、要人を無視できなかった。

知人と談笑しながらも、常に要人の気配を背中で感じ、聞き耳を立てていた。



先月のパーティーでは、かつて義妹(いもうと)だった橘かほりに逢った。

……もちろん偶然などではない。

要人が、引き合わせてくれたのだ。




敬愛する舅と、かわいい義妹は、橘家に泥を塗った領子に、毎年毎年、年賀状を送り続けてくれていた。

かほりは、一児の母となり、離婚していた。

ドイツで名を馳せたチェンバリストとして仕事は順調だが、……私生活は別れた亭主に未練たらたら。



……恋愛と結婚は、どうしてイコールじゃないのかしら。


かほりとの邂逅は、領子に、自分の状況を客観視させるイイ機会となった。





領子は、夫の一夫を愛している。

でも、それは恋じゃない。


恋は……物心つくまえから、たった独り……竹原だけ……。



46歳の要人は、人もうらやむ……どころか、そこかしこに恨みを買うほどの成功者なのに、昔の少年の時のまま、いつまでもギラギラしていた。

何もかもを手に入れたはずの大富豪となっても、本当に欲しいたった1人の女性だけは他の男のもの。



……でも、最近は奥さまと、多少イイ関係を築いているのかしら。

不思議と嫉妬はない。


いや、他の女性との浮き名は気にいらないけれど……奥さまとはむしろ仲むつまじくいてほしい。


佐那子さまを傷つけないでほしい。



何度となく言い続けてきた言葉は、ただの強がりではない。


それは要人にもわかっていた。



もちろん、領子の願いをかなえるためばかりではない。

要人自身もまた、少しずつではあるが、妻の佐那子に歩み寄ろうとしていた。


積極的に馴染みの女性と手を切るには至らなかったが、足が遠のき、他の男へ移るのを後押しした。

そして、新たな女を作ることは、なくなった。





「ニュースがありますよ。」

2人きりになった途端、要人がそう切り出した。


「まあ。なぁに?いいこと?」

ソファにお行儀よく座りながら、領子がそう尋ねた。


要人は、隣に座ると、グイッと領子を抱き寄せた。


領子は裾が乱れないように気づかいながらも、要人の胸に身をゆだねた。
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