いつも、雨
恭風は何でもないようなことを言ったが、要人は胸に嫌なざわつきを覚えた。



似たようなことが、その後も度々あった。

しかし、ようやく恭風が重い腰を上げたのは、それから1年以上たってしまった後だった。


「一度、病院に行ってみましょうか。」



……行ってくださいとこれまでに何度も言って来たが、ついぞ恭風は自分で検診の類いには行っていない。

放置しておいても、自発的に行くとは思えない。


恭風は、一瞬、目を泳がせたが、すぐに笑って誤魔化した。

「ええわ。病院嫌いやねん。血圧が高いとか、メタボやとか……いちいち言われたくないねん。」


気持ちはわかる。

今までも、そんなふうにのらりくらりとかわされてきた。


しかし……。


「恭風さま、もしや、何らかの自覚症状がお有りなのではありませんか?」


要人にそう問われて、恭風は憮然とした。


答えないけれど、否定もしない。

……ダメだ。


要人はスマホを取り出した。



「いや、ええって。」

ただちに手配しようとしているのを察知して、恭風は慌てて止めようとした。


しかし、要人はわざわざ笑顔を作って威嚇した。

「人間ドックに参りましょう。私も一緒に受けますので。大丈夫ですよ……医師には、余計な生活指導は控えるようにお願いしますので。」


言うだけ言って、要人はすぐに秘書の原に電話をかけた。

すぐにねじ込んでくれると返事をもらった。

しかし、恭風も要人も、その時、けっこうな酒を飲んでいた。

さすがに、今日、これから行くわけにはいかない。


「明後日の午前中に予約を入れてもらいました。明日はお酒を控えてください。それから21時以後の飲食はお止めください。水だけで我慢してくださいね。」


要人の注意事項に、恭風は嫌そうに顔をしかめて、それから渋々うなずいた。


……本当に、体調が悪くていらっしゃるんだな……。

治療で完治できる病ならいいのだが……。




要人の不安は、的中してしまった。


恭風の身体は癌に侵されていた。

それも、一ヶ所ではなかった。



とりあえず大腸癌だけは摘出したが、すぐそばの肝臓も、肺も、甲状腺にも癌が点在していた。


……恭風には告げられなかったが、とても手術で摘出できない脳腫瘍も見つかった。



余命半年。


それが、こっそりと要人に伝えられた医師の診断だった。


要人は、自分で思っていた以上に、激しく動揺した。

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