いつも、雨
その時だった。

由未の両の瞳から、ポロポロと涙がこぼれ落ちた。



……綺麗だ……。

とても、綺麗だ……。

僕の代わりに泣いてくれるんだね……。

……優しいね……。

由未ちゃん……。

僕は……。



言葉にできない感情が、恭匡の心に湧き上がる。


愛しさが、悲しみを連れてきた……。

そうとしか思えない。


恭匡の右目から、つーっと涙が頬をつたって流れた。







「……あ……。」

声にならない小さな喫驚を、義人が漏らした。


すぐそばで帳場を仕切っていた要人の秘書の原が顔を上げ、義人の視線を追った。

「……。」


無言で、原と義人は顔を見合わせた。



恭匡さまが、涙をこぼされた……。

やっと、お泣きになられた……。

きっかけは……由未……?


……へえ……。

こりゃ、お父さんの思惑通りになりそうだな。


しかし、恭匡さま……か。

大変だぞ……。





この数日だけでも、義人は頑なな恭匡に手を焼いた。




穏やかな人だし、決して周囲を困らせる我が儘は仰らないが……意固地過ぎて……。

うーん。

由未……なあ……。


まあ……サッカー少年よりは、似合うかな?





複雑な気持ちで生ぬるく見つめる義人のそばで、秘書の原はすぐに無関心を装った。










会葬者のお焼香が終わると、まもなく、計ったように読経が終わった。

斎場に向かう棺を見送り、葬儀は終わった。






ひと足先に帰って来た佐那子は、庭で独り膝を抱えていた。

普段は深く考えないようにしている夫の女性関係……その中でも、とりわけ見ないふり、気づかないふりを通してきた領子という女性の﨟長けた美しさが脳裏に焼き付いて、心をもやもやさせている。


強引に由未を連れ帰ってくれば、少しは気を紛らわせることも出来たかもしれない。


佐那子は、また一つため息をつくと、深くうなだれた。





神戸の下宿先に戻る娘の由未とは、新幹線で別れた。

こんな時、ペットでも居れば慰められたかもしれない。





子供達が成長し、手がかからなくなってから、佐那子は知人に頼まれたことがきっかけでボランティアを手伝うことが増えた。

なかでも、共働き家庭の幼児や児童を預ることが多く、週の半分は賑やかになった。

その分、独りの時間の淋しさがつらく感じるということか。


警察犬の里親になることも考えたけれど、別れの時を想像するととてもその気になれない。


それなら、いっそ、親のいない施設の子を引き取って里親として育てるとか……。
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