いつも、雨
翌日は、朝から小雨が降っていた。


告別式には、京都から佐那子と由未も参列した。

ただし、一般弔問客に交って目立たないように受付を済ませ、後方にひっそりと座った。


それでも、領子は佐那子をすぐに見つけてしまった。


佐那子さま……。

ずいぶんと久しぶりですけれど……お互いに、年相応に老けたけれど、佐那子さまの優しそうな柔らかい雰囲気は変わってらっしゃらないわ。

竹原……。

……優しくしていただいているのね……。



言葉を交わすことはなかった。

ただ、お焼香のためにすぐそばまでやってきた佐那子に、領子は他のどの弔問客に対するよりも心を込めて頭を下げた。


佐那子は、夫の永遠の想い人を前に、あり得ないほど緊張していた。

口から心臓が出てきてしまいそう……。


ただただ失礼のないように、取り繕い、なんとか焼香を済ませた。



……領子のわかりにくい誠意も……そのすぐ隣の恭匡の様子も、佐那子の目には全く映らなかった……。




佐那子に続いた娘の由未は、9年ぶりに恭匡と対面した。


それまで無表情で淡々と焼香する弔問客に頭を下げていた恭匡の目に、由未の姿が飛び込んできた。

ずっと恭匡をすっぽり包んでいた靄が、一瞬にして消滅した。


焼香を済ませた由未が、恭匡の前にやってきた。

ほとんど無意識に、恭匡は微笑んでいた。

ダサい公立高校の制服も、美人とは言えない風貌も、愛しくて愛しくてたまらなかった。


視線が絡み合うだけで、恭匡の胸はときめいた。


……ああ……。

こんな時でも……人間は恋を実感するのか……。



父親を亡くして、悲しみに暮れ、止まっていた恭匡の時間が再び動き始めた。
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