いつも、雨
「ご報告があります。」

その日、珍しく要人(かなと)は緊張していた。


領子(えりこ)は、不思議そうに要人を見つめて、言葉の続きを待った。


こんな時でも、……裸で抱き合っていても慎ましやかな行儀作法が身に付いて離れない領子が愛しくて……同時に、妻の佐奈子(さなこ)もそんな女性だということに気づいた。



要人の瞳に他の女性の影を無意識に感じ取り、領子もまた動揺した。

……なぁに?

言いにくいことなの?

……やだわ。

なんだか、気持ち悪いわ。

はっきりおっしゃってもいいのよ。

わたくし以外の女性を思い出している、って……。

奥様?

それとも……別に、新しい女性ができたのかしら……。




領子の瞳が不安から不信感に変わっていくことに気づいて、要人は慌てて言った。

「や。たいしたことじゃありません。思わせぶりな言い方をしてしまったなら、謝ります。領子さまを煩わせるようなことではありません。……我が家に、養子を迎えることにいたしました。いや、養女、と言うべきかな。小学生の女の子です。」


思ってもみなかった言葉に、領子は目を見張った。

「ま……あ……。竹原、まさか……あなた……今度は、お妾(めかけ)さんに産ませた子を、奥さまに育てさせるつもりなの!?」


「……違います。」

憮然として、要人は否定した。



領子は苦笑いを隠して、首を傾げて見せた。



要人は、ばつが悪そうに頭を掻いた。

「本当に、違いますから。……愚息と、家内が、児童養護施設で親しくなった子です。」


「まあ……。え?……あの……里子ではなく、養子縁組みするの?」

領子の目が丸くなった。



自宅に孤児を引き取って育てること自体は、珍しいことではない。

家の跡を継ぐ子が必要な場合もあれば、アメリカのセレブのように慈善事業として恵まれない子供たちの面倒をみるというケースもある。


竹原家には義人と由未がいるので、特に跡取りは必要ない。

それどころか、養子となると、相続の権利が発生し、実の子供たちにとってはむしろ不利益となるだろう。


ただ子供を育てるなら、里子で充分なのに、養子縁組をする必要があるのだろうか。
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