いつも、雨
要人は、不思議そうな領子の頬に指を這わせるように撫でながら、言葉を継いだ。

「ええ。養子に、と考えています。……まだ煩わしい手続きが残っていますので、実際に我が家に迎えるのは、まだしばらく先になりそうですが。」


「……本当に、竹原にも、……奥さまにも、ご縁のないお嬢さんですの?」

問い詰める領子には、嘘はつけない。


要人は、そっと抱き寄せて、領子の視線を避けた。



それだけで、充分だった。

何らかの事情があることを察知して、領子は小さく息をついた。


……わたくしに……言えない事情なのね……。



しばしの沈黙の後、ためらいがちに要人は口を開いた。

「確信はありませんので……まだ、伝えるべきではないと思っていましたが……」


ハッとした。

1つの可能性に気づいた領子は、慌てて要人から身を離した。



要人はからになった両腕を所在なくおろした。


震える声で、領子は尋ねた。

「まさか……お兄さまの……」

「……違います。」

ニコリともせずに、要人は領子の疑問を撥ね除けた。



ホッとしたような、少しだけ残念なような、不思議な気持ちを持て余す領子は、

「そう。」

としか答えなかった。




要人は伏し目がちになり、口早に伝えた。

「法的に実の両親は不明です。私の子でも、恭風さまの子でもありません。科学的に証明済みです。しかし、天花寺家と無関係といわけではないようでした。うっすらと、ご縁があるようです。」


「どういうことですの?」

シャキンと、領子の背筋が伸びた。


もはや先ほどまでの愛らしい恋人とは別人のように硬質な声で、領子は詰問した。


「兄でないなら、父の関係者とでも仰るの?」



……領子は知らないが、確かに亡き父親は愛人を妊娠させて騒動を起こしたことがある。

しかし亡き天花寺夫人は、非人道的ながら、無理矢理お腹の子を亡き者にしてしまったという。


黒歴史を振り払うように、要人は、ゆっくりと大きくかぶりを振った。

「断定はできませんが、違うと思っています。……だが、他人ではないでしょう。彼女の命名紙が施設に残っているのですが……恭風さまの手蹟(て)とお見受けしました。」


「え……。」

領子は絶句した。

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