いつも、雨
長い長い口付けのあと、要人はコームの月下美人を絹に包みながら尋ねた。

「……花は……咲きましたか?」


領子はうれしそうにうなずいた。

「驚きましたわ。美しいことは存じてましたけど、あんなに強い薫りとは知りませんでした。届いたその夜に咲いたのよ。……せっかくの七夕なのに、雨で……切なくて、やりきれなかったのが、霧散して、晴れやかな気持ちになりました。」

「……そうですか。お慰めできて、よかった。……七夕の雨は、嫌なもんですね。……身につまされる。」

「……ええ。本当に。梅雨時ですから、毎年のことですけど……特に今年は、悲しかったですわ。」


しんみり同調する領子に、要人は苦笑した。


「毎年、思いますよ。七夕は旧暦に戻すべきだ、って。」

「……そうね。昔の暦なら真夏ですから、2人は雨に邪魔されず、逢えますね。」


何て象徴的なのかしら……。

わたくしたちも、誰にも邪魔されない昔に戻れたら……。


……。


……いいえ。

わたくしたちの間に、障害がなかった時なんて、かつて一度もなかったわ……。






そっと要人の腕に寄り添った。


領子の心が伝わったのか、要人は静かに断言した。

「大丈夫。雨でも台風でも、私は諦めません。ずっと。」



ふわりと、領子の心が軽くなった。





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