いつも、雨
領子は、竹原は私のもの!とばかりに、要人の太ももを枕のように頭を乗せた。

でもそれ以上は動けないらしく、そのまま、ぐったりと臥していた。


……ざまぁ見ろ。

なぜか要人はそんな気持ちで、くたっとしている領子を見下ろした。

今まで我慢してきた、鬱憤かもしれない。


「無責任に男を煽るから、返り討ちに遭うんだよ。領子さまは無防備過ぎる。」

要人がそう言うと、領子は……かすかに笑った。


……そう。

では、これからも……わたくしからせまれば、こんな風に……ううん、それ以上のことも……してくださるのね……。

「……うれしい……。」

領子は小さくつぶやいた。



要人は、さすがに呆れた。

……やれやれ。

ちっとも懲りてない。

懲りるどころか……味をしめたな。

まったく……もう……。



「……では、数学に戻りましょうか。」

要人は、もう一度領子を両脇から抱え上げて、座卓に座らせた。


「切り替えられない……。」

領子はそうぼやいて、コテンとテーブルに頭をくっつけた。


「いや、そこは切り替えていただかないと。……そろそろ、キタさんがお茶でも持って、様子を見に来るんちゃうかな。」

降り続く雨を眺めて、要人はそう言った。


慌てて領子は背筋を伸ばし、シャーペンを持った。

けなげに要人の言いつけを守ろうとしている領子がかわいくて……要人もまた正面に座り直した。




練習問題に取り組む領子のつむじを眺めて、要人はつぶやいた。

「……領子さま……京都で、会いましょうか。」


領子は何を言われたのか一瞬わからず……数秒たってから、顔を上げた。

「京都?お茶のお稽古にご一緒に来てくださるの?」

「いや。一緒には行かない。……でも、俺も一度京都に帰って、鴨五郎のおっちゃんに会いたかったから。」

預かったままの鍵も気になる。

「あ。それ、違う。……何で、先にそっちの計算するん?」

「え!?……あ……ほんとだ……。」


慌てて領子は小さくなってしまった消しゴムをかけた。


「……でも、どうしてこっち?……を、先に、計算するのですか?」
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