いつも、雨
2年が過ぎた。


表向きはよそよそしく振る舞いながら、要人(かなと)と領子(えりこ)は、密やかに幼い恋を育んでいる。


毎朝の駅まで車で送迎するわずかな時間、そして週に3度2時間の勉強の時間には……一応は2人きりになれる。

しかし、どちらも完全に密室というわけにはいかない。

車は外から丸見えだし、勉強の時も雪見障子を全開にし続けている。


用心深い要人は、それでも、隙あらば甘えてくっつこうとする領子を窘めた。

不満はあるものの、領子は要人と過ごすことのできるわずかな時間を大切にしていた。


月に1度、お茶のお稽古で訪れる京都で落ち合うひとときなどは、人生の宝物だ。

要人は、人目につかない隠れ家レストランや、あまり有名ではない観光地に領子を連れ出し、普通の恋人同士のようなデートを演出した。

何もかも忘れて、笑顔でおしゃべりし、手をつなぎ、腕を組み、抱き合い、口づけを交わす。


夢のように幸せな時間だった……。





……でも、そろそろ……いいと思うのよね……。

早熟なクラスメートから、恋バナの延長で彼氏とのお泊まりの話を聞く度に、領子の心はモヤモヤした。


そもそも、同じ家に住んでいるのに……夜這いだって簡単にできるのに……頑固だわ……竹原……。


でも今度こそは!


領子は、このゴールデンウィークがチャンスだと意気込んでいた。


高校受験のない、クラブ活動もしていない、お気楽なお嬢さま学校の中学3年生。

昔なら、お嫁入りの話が飛び交う年頃だ。


もっとも、領子には生まれる前からの婚約者がいる。


現在、系列高校の1年生の橘千歳さまは、3年後の大学受験に向けて猛勉強中……らしい。

昔なら、華族の子息は帝大に無試験で入学するルートがあった。

しかし現代は、残念ながらそのような優遇措置はない。

有名私立大学に経営者の口利きで入学することはできても、国立大学に入学するには努力が必要だ。


橘家の当主の千秋……つまり、千歳の父は非常に優秀で、塾や家庭教師につくこともなく東大に合格したそうだ。

千歳は、父親ほどずば抜けてはいないが、小さい頃から努力を惜しまない真面目な男だ。

学生バイトではない、教員資格を有する有名予備校の講師を家庭教師に雇い3年後の受験に備えているらしい。
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