いつも、雨
「領子さま?体調がすぐれないようですが、もう車を呼んでもらいますか?」

早々にお箸を置いた領子を気遣うように、要人はテーブルをぐるりと回り込み、肩を抱いた。


「……いいえ。もう少しだけ、こうしていてください。」

領子はそう言って、要人の胸に頬を擦り付けた。



……どう見ても、単に甘えたいだけとは思えない。

初めてなのに無理をさせ過ぎたのだろうか。


「では、チェックアウトまで少しゆっくりしてきましょうか。……お茶のお稽古は昼からでしたね?……まあ、間に合うか。」

「お稽古なんて、どうでもいいわ。それより、竹原。わたくし……わたくし……」

領子の目が赤く潤む。


……欲情してる?

まさか……。

いや……そうなのか?


要人は、半信半疑で領子の乳首に指を這わせた。


びくびくと上半身を大きく震わせて、領子は声にならない熱い吐息を漏らした。


……驚いたな。

マジか。

別に怪しい媚薬の類は一切、用いてないのだが。

たった一晩で、ハマってしまったのか?

……やり過ぎたのかな。

いや、でも……起きたのも遅かったし……これからまたやるってのは……ちょっと慌ただしいよな。

参ったな……。



見るからに困っている要人に気づき、領子は慌てて背筋を伸ばした。

「ごめんなさい。竹原を困らせるつもりはないの。……また……してくださいね。」


強がる領子がかわいくて、愛しくて……。


「おいで。」

膝の上に領子を座らせて、ぎゅっと抱きしめた。


浴衣の裾が乱れる。

下着をつけずに眠ったので、湿った感触が太腿に生々しい。


「……竹原……。……入れて。」

何もしてないのに、期待に打ち震え、濡れていることに末恐ろしさを感じつつ座位のまま貫いた。






昔、お兄ちゃんと呼ばれてた頃は、ただ愛しくて、守ってあげたい、笑顔が見たい……と、思っていた。

でも、竹原と呼ばれる度に、複雑な感情が渦巻く。

領子への大らかな恋心が鬱屈し、踏みにじってやりたくなる。

そんな気持ちを否定できないのに、同時に、領子に、より強い清らかさを勝手に感じて、恐れおののき、崇拝してしまう。

わかるかな?

男として支配しきれない、我が物にできない、そんなもどかしさ。

まるで甘美な毒だ。


竹原と呼ばれるだけで、俺の脳髄が恍惚とするんだ。



愛してる。

いつまでも……。
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