いつも、雨
蜜月はそう長くなかった……。



あの日……要人(かなと)と結ばれた朝、2人で貴船神社にお参りした。

ほんの数日前、お揃いのお守りを持つのはダメだと言った要人は、領子(えりこ)のおねだりに負けて一対の縁結びのお守りを買ってくれた。


ただし、お守り袋は神社に返納した。

装束の男女がそれぞれ織り込まれていて、とてもかわいかったので、領子はいつまでも涙目で古札納所を見つめていた……。




後日、別誂えの錦のお守り袋にお守りの中身を入れた。

敢えて、形も大きさも布地も全く違うものにしたので、お揃いにはまったく見えなくなった。




「……やっぱり、袋の分だけ、ご利益が半減しちゃったのかしら。」

赤い錦の袋が、領子の涙で少し濡れた。







梅雨が終わり本格的な夏が来て間もなく、天花寺家の当主……つまり、恭風と領子の父が死んだ。

梅雨のせいか足が冷えて痛い……と、好きなゴルフにも行けずに不機嫌そうだった父は、気が付いたら歩けなくなっていた。

急きょ入院して検査したところ、脳に悪性腫瘍が見つかった。

手術も治療も出来ないまま、入院してわずか2週間で亡くなってしまった。



相続税どころか、葬儀代の支払いすらままならない天花寺家の窮状を見かねて、橘千秋氏が支援を申し出た。

……いずれは親戚になるのだから……との、人格者の千秋氏らしい親切なはからいだった。


未亡人となった領子の母親は、恥も外聞もなく、橘家の世話になろうとした。

恭風は、そうは言ってもまだ親戚でもないうちから援助を受けることは、妹を人身御供に出すようで外聞が悪い……と、反対した。


「でしたら少し早いですが、喪が明けるのを待って、結納を進めましょうか。……それでしたら、恭風くんのプライドを傷つけずに、結納金としてまとまった額を用立てることも出来ますから。」

本当に、橘千秋氏はイイヒトだった……。




「あのヒトの家の嫁になるっちゅうんは、幸せなこっちゃなあ。領子、よかったなあ。」

葬儀を終えて家族だけになってから、恭風は妹に噛んで含めるようにそう言った。


領子は泣き腫らした目で、兄を睨んだ。
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