いつも、雨
その夜、領子はとても眠ることができず……要人との縁結びのお守りを胸に抱いて泣き続けた。


小さな庭を突っ切って、縁側を駆け上がり、障子を開ければ、そこに大好きな要人がいる。

抱きしめてほしい。

不安で不安で……苦しい……。

でも、要人との約束を破ることはできない。

今、そんなことをしたら……母にも兄にも、2人の関係がバレてしまう。


……いっそ、バラしてしまいたい……。

何度も何度もそう思ってきた。


でも、その都度、法、正確には条例に触れるということを思い出した。

兄はともかく、母は……何のためらいもなく、要人を警察に引き渡すだろう。


早くオトナになりたい……。

毎日そう願っていたのに……。

まさか、こんなことになるなんて……。


「お父さま……。」


当主の早すぎる死は、斜陽の天花寺家には大きすぎる痛手だった。






要人もまた、抗いようのない大いなるものの力を感じていた。

葬儀の費用は自分が払うつもりでいた。

しかし、ご家族ご親類がたの精進落としの会食の間に、葬儀会社の職員に申し出たところ、ひと足先に橘千秋氏が支払い済だと言われてしまった。


橘千秋氏がひとかどの人物だということは、知っていた。

いっそ、千秋氏が領子の婚約者なら……要人は、自分の気持ちを打ち明けることも、領子を受け入れることもなく、身を引いただろう。


しかし領子の相手は千秋氏のご子息の千歳だ。

……こちらはハッキリ言って……不信感しかない。


いや、それは、お互い様なのだろう。

おそらく、千歳さまは、領子さまと俺の関係に気づいている……。

知っていて、知らないふりをしている。

いや、どうでもいい、という態度を貫いている気がする。

いつからだろう。

……まあ……領子さまが俺を見る目に気づけば、一目瞭然だろう。


だから、公式の場所では要人は裏方に徹した。

人目につかないように振る舞っていたのだが……。


領子さま……。

何を考えている?

今……。


独りで泣いているんだろうな……。

抱きしめてあげたい。

めくるめく快楽で、ひとときだけでも、つらいことを忘れさせてあげたい。


……何の解決にもならないんだろうけど。


だからといって、何もせずにいられない。

領子さまを笑顔にしてさしあげるには……どうすればいい?


どうすれば、領子さまは幸せになれるだろう。



俺にできることは……何だろう……。


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