君の声が、僕を呼ぶまで
初めて彼女を見た、入学式の日。

怪我した雛鳥を包むためのハンカチを渡そうとして、僅かに触れてしまった手。

あの時の、恐怖に満ちた、顔。


顔だけじゃない。

全身から、心の奥から、僕を、人間を拒絶しているのが分かった。

今の彼女からは、それを何倍にも何十倍にも掛け合わせたような感じがした。


「…2人とも!」

次に保健室から出てきたのは、沙羅だった。

「あ、智秋…?」


何でそこに沙羅がいたのかは分からない。

去年から相川さんと同じクラスではあるけど、接点があったなんて、今まで一度も聞いたことがない。

だけど、お互い、それどころじゃない。


「桜子、小春ちゃん!」

沙羅は、相川さんのカバンを植木さんに渡して、一言二言、言葉を交わして戻って来た。

僕は只、それを呆然と立ち尽くして見ていた。


「沙羅…」

聞きたい事は山ほどあるのに、何から聞いていいのか分からない。

そもそも、僕なんかが聞いていいのか分からない。

「智秋、あの…ね…」

沙羅も、困ったように、慎重に言葉を選んでいるようだった。
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