君の声が、僕を呼ぶまで
相川さんも、同じ傷を抱えているんだと、山崎さんの一言を聞いて確信した。

山崎さんが、そんな事を言った理由が、大樹と同じようなものかどうかなんて、今はどうでもいい。


この傷は、治ったと見せかけて、少しの刺激でまたすぐに疼き出す。

インクが滲むように広がり、体中に、心の奥に、腐食の根を伸ばしていく。


それを僕は知っているのに。

さっき、僕の横を走り抜けていった時に感じた、相川さんの恐怖。

植木さんからカバンを受け取る事さえ、絶望的な顔をして拒絶していた。


僕は、その暗い世界を知っているのに。

ただ、呆然と見ていた。


横を走り抜ける相川さんの手を、どうして掴めなかったのかな。

入学式の時のように、また怖がらせてしまうから?

だから僕はずっと、彼女を遠くから見てきた。


僕は知ってる。

彼女が人に脅えている事を。


僕は知ってる。

人に、彼女に、手を払いのけられる事で、僕自身が傷付く事を。
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