君の声が、僕を呼ぶまで
「小春!」

僕は、中庭で空を仰いでいる小春を見つけて、駆け寄った。

「智秋」

僕に気付いて、小春は振り向く。


…あれから、小春は、少しずつ少しずつ、言葉を取り戻していってた。

「何、見てるの?」

「桜の樹」


僕も一緒に見上げる。

蕾が少しずつ、膨らみ始めている。


僕がここで初めて小春を見てから、二度目の春が来る。

ふと、足元に、雛鳥がいる事に気付く。


「あっ…」

怪我をしてるんじゃないかと、僕が掬い上げようとすると、

「待って」

と、小春が制した。


「うん、大丈夫。飛ぶ練習をしてるだけみたい」

雛鳥をじっと見つめた後、僕の方を向いて笑った。
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