純粋な思いは危険な香りに誘われて
連れていかれたのはホテルだった。いわゆるラブホテル。


何が起きているか頭がついていかないまま手を引かれて、抵抗する間もなくあたしはあっさりと部屋に入っていた。


ギラギラしていなくて普通のビジネスホテルみたいな部屋なのが唯一の救いだったかもしれない。ベッドがキングサイズでやけに存在感を放っていることだけが違うくらいだ。


コートを脱いでハンガーにかけると抱きすくめられた。髪に吐息がかかる。


「あ、あの…………」

「今更逃げるのはなしだよ」

「す、するの? ほんとに?」

「試してみますかとか言ってたくせに?」


やばい。どうしよう。


どうすればいいかわからない。


「上向いて」


おそるおそる上に顔を向くとちゅっと唇に柔らかいものが触れた。


「唇冷たいね。体もか」


突然触れた温もりに頭が真っ白になる。いつのまにかあたしは彼の胸に体を埋めていた。彼の手が頭の後ろにある。


「緊張してる?」

「ご、ごめんなさい……」

「なんで謝るの」


ふはっと笑った今井くんがゆっくりと頭を撫でる。思ったより手が大きいとわかる。


その手が下りて頬に触れる。顔がゆっくりと近づいてくる。目を合わせたくなくて俯くと二人の距離が突然0になった。


すぐに離れてはまた触れる。目をつぶると彼の吐息まで聞こえそうだった。


彼はあたしを連れてベッドに押し倒した。その上に乗ってまた唇を合わせる。


今度は唇を強く吸われた。何度も何度も吸われて、びくっと体が震える。


彼が唇を吸う度に体の力が抜けていく。ガチガチになっていた体が溶けていく。まるで彼の熱に当てられたように。


飽きることなくあたしの唇を吸う。吐息に熱が篭る。


「俺のキス、いいっしょ?」


ようやく唇を離した彼があたしを見下ろす。あたしはわずかに息を乱しながら首を振ることすら困難だった。


「ほら、こんなんでへばっちゃだめだよ。まだまだ先は長いんだからさ」


また唇が重なる。また吸われる。慣れることなどない。熱が生まれる。


彼が首筋に顔を埋めて強く吸った。


ちくりと走る痛み。


頭がぼんやりとしている。何も考えられない。


体が熱いのは酒のせいだと思うことにしよう。


あたしはこの人から逃げられないと悟った。



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