絶望の空の色

遠くなっていく背中はいつしか人混みに紛れて見えなくなった。
悲しくない訳じゃない。
辛くない訳じゃない。
けれど不思議なもので、悲しくても涙はでない。
思えば彼の前でも、お客様の前でも同じ。
“嬉しい”以外の感情で泣くことなんてしたことなくて、いつだって飲み込んできた。

雑踏の中、俯いてその場から去ろうともしないなんて邪魔だとわかっている。
それでも私は動けない。
ようやく体が感情に追い付いてきたのか、じわりと目頭が熱くなる。
いつもだったらグッと堪えてしまうところだ。
だけど良いの、もう。
涙を流したって誰も見てはいないから。
大丈夫だよ、美伽。
我慢なんてしなくても。
つるりとひとつ滑り落ちた雫は夜の闇に紛れた。

1ヶ月ぶりにようやく実現したデートの約束は、私たちの関係を解消するためのもので、所要時間はものの15分。
浮かれた街の片隅で、私はようやく歩き出した。
イルミネーション輝く街が恨めしい。
すれ違う人の顔は笑顔ばかりに思えるのは多分被害妄想なんだろうけど、本当にそうだったのなら世界から取り残されているように思えてしまいそうで怖くてまともに顔を上げられない。

あのね、恭平くん。
私、あなたのことが好きだったんだよ。
とっても好きなんだよ。

言えなかった言葉の代わりに、つるつると涙が頬を濡らしていく。
止めることもできなくて、うつ向いたままで歩いていたから、すれ違い様に人とぶつかりそうになったけど、すみませんと呟いてまた歩く。
大丈夫、慣れた道だからどこに何があるのかわかってる。
暫く歩いて地下街に入る階段の入り口でふと立ち止まった。



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