小倉ひとつ。
瀧川さんの大きな両手が、水を掬うみたいに私の両手を掬う。


あくまで静かな眼差しに、ひたと見つめられる。


「勤勉な方の手です」

「っ」


穏やかな声に、きつく唇を噛んだ。


にじんだ視界の奥で、優しいひとが穏やかに微笑んでいる。息を吸うと、喉の奥で小さく高い引きつれる音がした。


もし手の惨状に気づかれたら、たとえ何も言わなくても、密かにがさがさだって思われると思っていた。


絆創膏どうしたのかなとか、……子どもみたいだとか、色気がない、とか、思われてしまうんじゃないかって。


瀧川さんの周りには、私が思い描くような、大人の——落ち着いたネイルがしてあって、綺麗で、白くて細くて、肌荒れしていない指先の女性もきっといるんじゃないかって。


私はネイルができない。爪が短い。丸まっている。ささくれが目立つ。


このぼろぼろの手では、仮にお休みの日にマニキュアを塗っても、全然素敵に見えないだろう。


自分の手の好きじゃないところは、まるで私の子どもっぽさの現れのようで、勝手に引け目に感じていた。


押し込めた熱量の裏返しとばかりに、内心いろいろが積もる。


気にしないなんて無理だった。好きが積もる度、小さな気になるところが増えた。


ひとりきりの、馬鹿な空回り。
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