小倉ひとつ。
お誕生花に気づく方はやっぱり、お花が好きな方や、何か先生をやってらっしゃって、お花に触れる機会がある方が多い。


もしくは、ご自分のお誕生花を贈られたり調べたりしたことがあって知っている方は、「ああ、これ〇〇ですよね。私のお誕生花だから、好きなお花なんですよ」と微笑むこともある。


お花は稲やさんでは必ず生けるものだから、お花をいくつか生けるくらいなら、お客さまも気楽にいられる。


お返しを考えなきゃ、なんて気を張る事態にはならない。


おや、と気づいた方がご指摘なさると、奥さんはいつも、「今日は選ぶのに悩んでしまったものですから」と笑う。


あくまで素敵な偶然にとどめるのは、悩んだから参考にさせていただいたの、という、お返しをいただかないようにするための言外の気遣いだった。


そうして気づいた方は大抵、お返しにはならないけれど、ほんの気持ちに、とおっしゃって、少しだけ多めに干菓子を買ってくださる。


干菓子なら日持ちするものね。たい焼きや生菓子より慌てずに食べられる。


「まあ、ありがとうございます」と奥さんが笑うと、「また来ます」とお客さんも笑う、そういう稲やさんが私は好きだ。
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