小倉ひとつ。
「……すみません、馬鹿なことを言いました」


口調を取り繕うことも忘れて手を引っ込める。


あああもう駄目だ、今度こそやらかした。お家にお邪魔する前に帰った方がいいかもしれないくらいには盛大にやらかした……!


浮かれすぎの舞い上がりすぎ、ついでに言えば緊張しすぎである。


ぐっと唇を噛んでうつむいたけれど、やっぱり百面相をしていたんだろう。立花さん、と静かに呼ばれる。


はい、となんとか返事をしようとした私が、後悔から固く貼りついて離れない唇に、強引に音をのせるよりも早く。


「お借りします」


低くかすれた声が耳元で落ちて。


「っ」


ぱっと手をさらわれた。


瀧川さんに引きつけるように少し引かれた腕に、つられて振り向く。


肩が大きく跳ねたのは、この赤い顔じゃ、冷たさに驚いたからだなんて受け取ってはもらえないだろう。


心臓がうるさい。さっきまでは少し離れていた瀧川さんが、近くにいる。


「立花さん」

「……はい」


ためらいを含んだ呼びかけは、照れをはらんでいるように聞こえた。おそるおそる顔を上げる。


「お手をお借りしても、よろしいですか」

「……ええ。これでも、体温の高さには自信がありますので」


先ほどの私の言葉をそのままなぞった瀧川さんは、言い訳じみた返答に。

赤い耳を気にしながら、ありがとうございます、と口元を緩めた。
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