小倉ひとつ。
ゆっくり歩き始めながら、手を繋ぎ直す。


ポケットに手を突っ込んで歩くなんて感じが悪いと思ったのかな。


瀧川さんは、あいている方の手を外に出したままだったのだけれど、お寒いでしょうから、とこちらが強弁してポケットに入れてもらった。


すみません、お言葉に甘えさせていただいて失礼します、とそんなに抵抗なく入れたところを見るに、やっぱり寒かったらしい。


本当は私のあいた左手の手袋をお貸しできればよかったんだけれど、瀧川さんは手が大きい。


一応申し入れたら、指を通すまでもなく、私の手袋の上から手を重ねた瀧川さんの指が、布地からあんまりはみ出しているので、ふたりで諦めた。


くすくすおかしそうに笑って「お気持ちだけありがたくいただきます」って言われてしまった。

手が小さくてすみません……。


繋いだ瀧川さんの右手と私の左手は、「お寒いでしょう」と気を遣って瀧川さんが自分のコートのポケットに入れようとしてくださったところを、「大丈夫です寒くないです、元気です」と強硬に辞退した。


何度も重ねて口走ったわけの分からないお断りの仕方は、焦りから頭が真っ白だったので許されたい。


……だって、ポケットに入れるなんて、そのためには近づかないといけないわけで。


ちょっとあまりに距離が近くて、私の心臓が危なかったので。
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