小倉ひとつ。
お互い朝ご飯をよくこのお店でいただくようになってから、結構な頻度でお会いするようになった。


気づいたら声をかける。もうすでに何度かご一緒しているので、店員さんもスムーズに対応してくれる。


いらっしゃいませ、の時点でどちらかが先に店内にいると、ありがたいことに、お連れさまが中でお待ちです、とご案内してもらえるようになってきた。


いや、連れではないんだけれどね。でも毎回一緒に座るもんね。


私は瀧川さんの連れではないことは確実だ。


かと言って、友人にしてはひそめた恋が明確すぎるし、知り合いにしては顔を合わせる頻度が高すぎるし、お連れさま以外の形容が見つからない。


私はカウンターに陣取りながら、振り向きたいのを我慢していた。


「すみません、お隣よろしいですか?」

「はい、もちろんです。どうぞどうぞ」


斜め後ろから声をかけられる。


聞き慣れた穏やかな声。やっぱり瀧川さんだ。


「おはようございます」

「おはようございます」

「瀧川さんとお会いできるなら、カウンターじゃなくてテーブル席にお願いすればよかったでしょうか」

「お隣は新鮮ですよね」


ふふ、と笑い合う。稲やさんで会い、カフェでも会うなんて、ちょっと面白い。


初めてご一緒した日から何度か朝食や昼食を食べにきて、たまに会うと向かい合わせに座るようになった。


約束をして会うのも楽しいけれど、約束をしていないのにふいに顔を合わせるのは、もっとずっとくすぐったくて幸せだ。
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