小倉ひとつ。
休憩はひとりずつだから、直接渡す機会はなかなかない。


でももし一緒に休憩する機会があったら、要さんのお土産でもどなたかお客さんからいただいた差し入れでもなんでも、みなさんにおひとついかがですかって聞いて回るようにしていた。

みなさんにって渡されたものは、きっちり等分して。


休憩時間がかぶらなくても、乾燥しないものの場合は、後で食べてもらえるように、瀧川さんからですって書き置きをして、できるだけ卓上に分けておいた。


要さんはいつでも日持ちするもの——つまりは乾燥しないものをくれたので、結局毎回お裾分けしていたのだけれど。


「『今日もかおりちゃんにもらって』とか『かおりちゃんととっても美味しいねって食べたんだよ』とか言われる度に、いいなあと思って」

「そうなの?」

「うん。俺、一応『みなさんに』って渡してたけど、絶対にみなさんで食べてほしいなら奥さんとか稲中さんとかに直接渡すんだから、もっとひとりじめしてくれてもよかったんだよ」


他に言いようがなくてみなさんにって言ってたのに、かおりは毎回律儀に等分してるし、なんなら分けるの失敗したときは大きいものを他の人のぶんにしてるし。


「だから俺、途中から稲中さんたちのぶんとかおりのぶんを分けて渡してたでしょう」


そうだ。確かに途中から、おそらくラスクが一番初めだったと思うけれど、私のぶんは個別の小さい紙袋に入れられていた。


はっとした私に、要さんは軽やかに笑った。


「でも、そっちも味とかものとかが違うときはお裾分けしてたって聞いてるけどね。そういう律儀なところ、ずっといいなと思ってる」

「……ありがとう」

「あとすぐ照れるところも可愛いなって思ってるかな」


思いきり目を泳がせた私に、実に楽しげな追い打ち。ひどい。


笑わないでとむくれると、ごめんごめん、とやっぱり笑いを多分に含んだまま謝られた。

……ひどい。
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