小倉ひとつ。
もう一度、瀧川さんの手をちらりと横目で見遣る。


つくづく綺麗な手だ。


一人暮らしで家事もしてるはずなのに、どうやったらこんなに綺麗な手になるんだろう、とまじまじ見ていて気づく。


縦長に整った爪が、紫だった。


「瀧川さん」

「はい」


瀧川さんは呼びかけにこちらを向いて、なんだろうというように瞬きをした。


「ホッカイロはお持ちですか?」


私の視線をたどって、言いたいことを察したらしい。にこりと笑う。


「いいえ。でも今からお抹茶をいただきますから、すぐにあたたまりますよ」


いやいやいや。確かにあたたまるけれど、お抹茶は一服しかないし、今寒そうだし、たとえ稲やさんではあたたまっても、帰りも寒くなるでしょう。


えええ、と思ったのは思わず向けた視線が固まったので伝わったらしい。断固としてにっこり微笑まれる。


「大丈夫です」

「大丈夫ではありません」

「大丈夫で」

「大丈夫ではありません」


押し問答をいくら繰り返しても、全然暖を取ろうとしてくれない。


あまりに強硬な姿勢を崩さないということは、さては手が冷たいのを誤魔化そうとしてるな、多分。


でも、何度見直しても、やっぱり明らかに紫色の爪をしている。


にっこり笑う瀧川さんはかっこいいけれど、……わ、私は誤魔化されないったら誤魔化されない。


「瀧川さん、大丈夫か確かめたいのでお手を拝借してもよろしいですか」


柏手の音頭みたいな確認を取ると、即答された。
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