私のご主人様Ⅱ

『…今のは?』

『はい。飾ってある薔薇に匂いの強いものがありまして。こちらの不注意で申し訳ありません』

『薔薇?…あぁ、随分立派だね』

初老の男性の方が花瓶にさした薔薇を見ると、それに近づいていく。

屋敷に飾ってある薔薇はここの庭で育てているものを使ってる。それを取り替えるのは屋敷全体の掃除をしている人たちだ。後で報告しよう。

若い、私と同い年くらいの男の子は薔薇には目も暮れず、部屋の中央にある、机を挟んで向かい合ったソファーに腰かけた。

何か飲み物でも持って来よう。と、一度部屋を出ようとしたとき、初老の男性が薔薇を食い入るように見つめているのが見えた。

薔薇は何種類かを使って彩りよく飾られてる。でも、男性が見ているのはその中でも白い薔薇だけを見ているように見えた。

…そういえばあれ、撤去されちゃうんだよね。秋に色づくのを見たかったのになぁ。

奥様は気に入らなければすぐに取り替えてしまう。長い間楽しめる薔薇なのにこれじゃあ意味がない。

『お飲み物をお持ちいたします。ご希望はありますか?』

『いらねぇ』

同い年くらいの男の子が口を開く。

いらないって…。1番困るやつきた。あ、そうですかって出さないわけにはいかないのにっ!!
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