長い夜には手をとって


「へーい、塚村さん。何かちょっとしんどそうだけど、体調でも悪いの?」

 食堂で会った菊池さんが、手を振りながらやってくる。私は食べ終わったお皿を前に押しやって、笑顔を浮かべた。

「あ、何か久しぶり~!ううん、そんなことないけど?体調は大丈夫だよ。菊池さんは楽しそうだねえ、何かいいことあった?」

 多分、それを聞いて欲しかったのだろう。途端に瞳をきらりと輝かせて、彼女は座ったばかりの椅子から身を乗り出した。

「聞いてくれる?聞いてくれるー!?とうとう、されたの、私!」

「・・・は、え?された?何を?」

 そして誰に?

 私は彼女の勢いに面食らってちょっとばかり体を仰け反らせる。

 菊池さんはむふふふ~と鼻息荒く笑って、じゃじゃーん!と右手を前に突き出した。その薬指に光るのは、キラキラと存在を主張するダイヤモンド。

「あー!それってば、まさか~!」

 私は彼女の右手をがしっと持って指輪を凝視する。菊池さんはむふふ~とまた笑って大きく頷いた。

「そう!婚約指輪だよ~!彼ったらついにプロポーズしてくれたの~!」

 おおー!

 食堂であるにも係わらず、私達は揃って大声を出してしまった。周囲の冷たい視線を感じて慌てて椅子に座り直し、それからは興奮していたけれど小声で話す。

「うわ~!うわああ~!おめでとうおでとう!ついに、だね~!」

「そうなの!5年付き合ってようやくプロポーズ!待ちに待ちまくっていたせいで、された時は感動じゃなくてむしろホッとしちゃったわ、私」


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