長い夜には手をとって


 また100万円貯まる日は、案外近いかもしれない。

 ・・・と、いうことは、伊織君が私への返済を終える日だって、そんなに遠くないはずだ。

 そうなれば。

 彼はまた、出て行ってしまう?

 一緒に住んでいてすらこんなに会わないのに、そんな人を好きになったらしんどいだけだ。

 会えない人を想う辛さは、十分に経験していた。

 亡くなった父を想う時もいきなり去って行った弘平を想っていた時も。

 そんなのは、もう嫌だ。

 だから、あの夜のことは忘れよう。私はそう決めた。オリオン座もタバコの煙もチョコレートの甘さもコーヒーの熱さも、全部忘れよう。

 迫ってくる伊織君の吐息も、膝に感じた重みも。


 それから勿論、あのキスも―――――――――――――――




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