長い夜には手をとって


 弘平はそう言うと、その場でしゃがんで私と目線とあわせる。どうやらまた抱きしめようとは思わなかったらしい。良かった、すんごく良かった!あれをされると流石に理性が!!もう既に動悸が!!

「なあ、ナギ。いいだろ?ちゃんと考えてくれ。もう一度、俺と付き合っ――――――――」

 その時、台所の奥、庭に面した場所にある、洗面所のドアがパッと開いた。

「凪子さんどうした?!大丈―――――――」

 思わず二人ともそっちを見る。

「・・・ぶ、って、え?」

 声を出したのは、何と伊織君。しかも彼は、上半身裸の格好で髪からは雫がたれ、タオルを首からかけていた。

「・・・い、お・・・」

「―――――え?!」

 驚いてすらっと声が出ない私と同時に、弘平が叫んだ。彼は同じく仰天しているらしい伊織君をまじまじと見て、それから私に向き直る。

「・・・お前、男と同棲してたのかっ!?」

 へ?

 私はあんぐりと口を開けてソファーにしがみついたままで、弘平を見る。驚きすぎて頭が働かないのだ。伊織君、居たんだ!?電気ついてなかったけど、まさかお風呂に入ってたの!?

 弘平はパッと立ち上がって、片手で頭をかきまわす。そしてイラついた口調で言った。

「っんだよ・・・!俺、修羅場とかごめんだから!」

 それから彼はバタバタと玄関へ向かい、乱暴にドアを閉めて出て行った。そのバン!という大きな音を、私と伊織君はまだ呆然としながら聞いていた。


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