長い夜には手をとって
『それで歩けないので、直帰ってことで送ってきたんですが、道が狭くてタクシーが中まで入れなくて。あの、今、家にいらっしゃいましたらちょっと手を貸してもらいたいんです』
ええ~っ!?何よ歩けないって?私は仰天しながら、それでも玄関に走って靴を履く。
「すぐ行きます!」
携帯を切ってドアに鍵をしめ、暗い道を走り出した。
一体何だ~!水谷弟!君はどうなったんだ~!
やっと綾が大丈夫だって判ったばかりだったのに、今度は弟がトラブルらしい。もうあの姉弟、本当に私の心臓を傷めつけてくれるんだから~っ!
この間弘平に送られた細い路地を走り抜けたら、その路地への入口を塞ぐようにタクシーが止まっていて、いつかの茶髪ロングヘアーの女の子がこっちを見て立っている。
私が息せきって駆け寄ると、彼女はにこりともしないで頭を下げた。
「ありがとうございます。私が水谷さんに肩をかすので、悪いんですけど荷物お願い出来ますか?」
「え?はい、判りました。いお・・・水谷さんは、大丈夫なの?」
周囲が暗くて窓の中が見えないぞ、と思っていたら、タクシーの運ちゃんが出てきてドアを開け、伊織君に肩をかして下ろさせた。
「ごめんねー、凪子さん。お騒がせして」
車内灯に照らされた伊織君が、顔を顰めながらそういう。顔面が歪んだように見えたのは、もしかして笑ったつもりかもしれない。結構痛そうだ。
「うわあ、一体何事なの?」