長い夜には手をとって


「ほんとありがとー、凪子さん。どうぞゆっくり寝て下さい」

 伊織君がそういうのに何とか微笑んでみせて、最後の力を振り絞って立ち上がった。

「夜中に喉渇いたらダメだから、一応ね」

 ペットボトルから水を大きめのコップに注ぎ、ストローもつける。それを手が届くくらいの床において、掛け布団の上から毛布を一枚足した。

「乾燥するからエアコンは消すよ?これで寒くない?」

「うん」

「水届く?」

「ん」

 晩ご飯のあとに飲んだ痛み止めが効きだしたのか、伊織君は眠そうに目を閉じたままで頷く。伸びた前髪が彼の額に落ちて目元をこすっている。毛布に半分ほど顔を埋めていて、子供みたいに見えた。

「おやすみ、伊織君」

「・・・んー・・・」

 私は電気とエアコンを消すと、出来るだけ静かに二階へと上がった。

 自分の部屋のベッドに倒れこんで、脱力する。

 ・・・・・・ああ~・・・疲れた。

 だけど綾がどこにいるかが判ってよかった。無事なのも判ってよかった。伊織君も無事でよかった。これで入院とかになってたらもっと大変なとこだった。彼が家にいるのは微妙だけど、私には会社もあるし、自分の部屋もあるんだから別に問題ないよ、ね?

 そうだ、いいことの方が、多かったじゃない――――――――・・・

 何とかベッドの中に入り込んだら、そのまま眠ってしまった。

 夢も見なかった。



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