長い夜には手をとって


 更についでだから、タオルドライもしてあげよう。椅子に座らせて、伊織君の頭をタオルでガシガシと拭いた。

 そこで私は、あ、と声を出す。思いついたぞ!

「ねえねえ、髪の毛もちょっと切ってもいい?」

 え?と伊織君が私を見上げた。上から彼を覗き込んだままで、私は言う。

「かなり伸びてるでしょ、髪。首筋とか気にならない?」

「・・・切るのは別に構わないけど。何か理由があって伸ばしてるんじゃないし。でも凪子さん面倒臭くない?」

 やった!私は手を叩いて鋏を取りに行く。

「面倒くさくないよー!実は私は高卒で、美容師の学校に行っていたのだよ!綾の髪も切ってたしねえ」

 へえ、と伊織君が呟いた。

「でも美容師にならなかったんだ?」

「あー、うん。まあ色々あったもんで。そんなに切らないで、ちょっと形を整えるだけにするね」

「いや、俺は別に丸刈りでもいいんだけどね。どうせすぐ伸びるからって放置してるだけで。好きにしてくれていいよ」

 よし、切るぞ!私は久しぶりな指を屈伸させて温め、鋏を持つ。そしてまだ濡れている伊織君の髪をゆっくりと切り出した。

 土曜日のお昼で、台所に面している庭に出られる大きな掃き出し窓から冬の光が入ってくる。家の中を漂う埃がそれを反射してキラキラ光る。

 私は静かな部屋の中で、慎重に伊織君の髪を切っている。聞こえるのはお互いの息遣いと鋏の音。とても集中した。

「――――――よし」

 終わり!


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