甘くて苦い恋をした

夕方、加瀬さん達と会社で合流し、予約したお店へとタクシーで向かった。

助手席に結城さんが乗り込み、後部座席には加瀬さんを挟んで私と坂口さんが座った。

タクシーが走り始めると、加瀬さんのスーツから仄かに甘いムスクの香りが漂ってきた。

この香りを嗅いだのは3週間ぶりだ。
毎日当たり前のように、そばにあった香り

何だかちょっと切なくなった。


「高本 少し痩せた?」

ふいに、加瀬さんに話しかけられてドキッとする。

「いえ そんなことは…」

なんて、本当は少しだけ痩せたけど…
加瀬さんと離れたストレスだなんて悟られたくない。


「結城にこき使われたら、俺に言えよ」

加瀬さんの言葉に、結城さんが振り返った。

「やだな 俺は沙耶ちゃんのこと大事にしてるよ。今日だってフレンチレストランでデートしたしね…」

「あれはデートじゃなくて仕事ですよ!」

私がそう言うと、突然、加瀬さんが私の肩に手を回してきた。

「高本… こいつにセクハラされたらすぐに言えよ。俺がクビにしてやるからな」

「え…と」

顔まで寄せられて、狼狽える私…。

「何だよ セクハラしてるのはおまえじゃない」

「俺はいいんだよ… 高本とは信頼関係があるんだから… な? 高本」

「いや 沙耶ちゃん困ってるけど…」

「困ってないよ」

私の頭をグイッと引き寄せる加瀬さん…。

どうしちゃったんだろう
今日の加瀬さんのテンションは明らかにおかしい…。
加瀬さんが肩を抱いてくるなんて…
気の知れた同期の前だからなのだろうか。

そんなことを考えながら、ふと、坂口さんの方に目をやると、つまらなそうな顔で窓の外を眺めていた。



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