甘くて苦い恋をした
お店に着くと、加瀬さんは坂口さんを連れて店長らしき人のところへ挨拶に向かった。
「新規先らしいよ ここのダイニングバー。テコ入れしたいから客目線で色々と見てくれってことらしい…」
「そうなんですか」
坂口さんを連れて来た理由は仕事だったのかと納得し、ちょっとホッとする。
「安心したんだ?」
「何の話ですか?」
惚ける私に、結城さんがニヤリと笑った。
「坂口さん来るって言った時、怖い顔してたから…」
この人は始めから、確信犯だったらしい…。
「だから、もともとそういう顔なんです」
「まあ、よかったね…」
「だから、別に…」
「悪い 待たせた!」
会話の途中で、加瀬さん達が戻ってきた。
**
私達は加瀬さんの後に続いて店内を歩いた。
カウンター席の奥は、個室っぽく仕切られた部屋が並んでいた。
落ち着いたダウンライトの照明が、隠れ家的な雰囲気を演出し、とてもお洒落な内装だ。
靴を脱いであがると、加瀬さんと結城さんが向かい合ってテーブルについた。
これって、どっちにすわるべき?
迷っている間に、加瀬さんの隣は坂口さんに取られてしまった。
確かに、これが自然な組み合わせなんだろうけど…
ここでも加瀬さんを取られたかと、ちょっと悲しくなる。
「坂口、今日はあんまり飲みすぎるなよ」
「大丈夫ですよ」
カクテルを頼んだ坂口さんに、加瀬さんが釘を刺す。
「へえ~ 坂口さんってお酒好きだったんだね 歓迎会の時はあんまり飲んで無かったように見えたから…」
私の言葉に、加瀬さんが坂口さんの顔を見て笑った。
「あれは猫かぶってたんだもんな? 先週、取引先と飲んだ時なんか」
「あー 言わないで下さい! 加瀬さんにも迷惑かけたって凄く反省してますから…」
坂口さんが加瀬さんの腕を掴んで、ブンブンと首を振った。
「じゃあ、今日は頼んだからな。仕事で来てるって忘れるなよ」
「はい 大丈夫です!」
坂口さんは大きな声で返事した。
「なんかおまえに大丈夫って言われると、余計に不安になるのは何でだろうな」
「も~ 酷いですね ホントに大丈夫ですよ~」
加瀬さんの腕を突きながら、甘えた声で可愛く笑う坂口さん。
二人の楽しげな様子に、早速、胸が痛み出す。
「どうしたの?」
二人の様子に気を取られていると…
横から結城さんが声をかけてきた。
「いえ ちょっとトイレに行ってきます…」
そう言って席を立つと、坂口さんが私もと言って付いてきた。