俺様社長と付箋紙文通?!
陳列されたドーナツを順番待ちしながらお客さんが取り囲むように眺めている。どれひとつとして同じ模様のドーナツはない。チョコの色が違っていたり、トッピングのパウダーや粒が違っていたり、ドーナツ生地自体もプレーンとチョコ、抹茶、ストロベリーがある。よりどりみどりのドーナツたちにお客さんたちは目を輝かせて悩んでいる。

でもひとりだけ、ドーナツをのぞくことなく並んでいるひとがいた。ストレートの髪を後ろに束ねている女性だ。黒ぶち眼鏡をかけてじっと順番を待っている。選ぶもの楽しいと思うのに、なぜだろう。彼女の番になった。どうにも見覚えがある。


「いらっしゃいませ。ドーナツはお決まりですか?」
「昨日と違うものを」
「あ、はい。えっと……昨日はどんなのでしたか?」
「ホワイトチョコがかかってたけど」
「生地はプレーン生地でしたでしょうか、チョコ生地でしたでしょうか。あとトッピングはタブレットでしたか、シナモンパウダーでしたか、粉糖……」
「そんなに種類があるの?」
「はい。どれひとつとして同じ組み合わせのドーナツはありません」
「そんなの覚えてないわよ。適当に選んだだけだったから。面倒くさいわね。じゃあその抹茶のでいいわ。なにか紙に今日のドーナツの特徴を書いといて」


私はレジ横にあったピーチ色の付箋紙に今日のドーナツのトッピングを書いた。チョコ生地、ピスタチオチョコ(べたぬり)、アーモンドダイス。そのメモと引き換えに500円玉をもらった。お姉さんはそのメモを見て変な顔をした。


「抹茶じゃないの?」
「はい、ピスタチオナッツを配合したチョコです。コクがあって私のイチ推しです」
「ふうん、そう。明日はまた違うのを買いにくるわ」
「お待ちしてます。ありがとうございまぁす」


私は一礼して彼女を見送った。そして次のお客様からドーナツを預かる。昨日も昨日も一昨日も来てくれたOLさんだ。このビルのミドルフロアにある広告代理店にお勤めらしい。制服はなく、会社も服装にはうるさくないようで、今日もデニムの膝丈スカートに襟の高いコットンシャツだ。髪は明るい茶で頭のてっぺんでたまねぎになっている。

私は彼女のことをテツ子さんと呼んでいる。彼女の首から下がるIDカードには高柳鉄子と書かれていたから。
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