俺様社長と付箋紙文通?!
はがきサイズのドーナツカードは二つ折りになっていて、内側左面にはドーナツタイプが書かれたマス目、右側にはドーナツ店の紹介が書かれていた。とちぎを流れる巴波川(うずまがわ)になぞらえたうずまきドーナツは地元産の小麦を使い、トッピング素材は厳選して掛け合わせている、と。

でも、いま、開いたドーナツカードからはそれが見えない。付箋紙が貼られているからだ。その付箋紙にはこのカードができる前に俺が食したドーナツタイプが書かれている。初めに食べたのは秘書の宮下が控え忘れたが、その後購入したドーナツタイプは売り子が付箋紙に記入し、それを俺がカードに貼りためていた。

忘備録の付箋紙が6枚、スタンプが8個。ということはいままで15個以上のドーナツを食べた計算だ。

きょうのピンクづくめのドーナツを食い終えて、俺は新たな付箋紙に“ウルトラストロングなドーナツが食べたい”と書いてカードにはり付けた。明日もこれを参考に新たなタイプを宮下が購入してくることだろう。

東京にはたくさんの食べ物がある。うまいレストラン、うまい酒、うまいフルーツ。でもこのドーナツを超えるスイーツはここにはない。田舎だと馬鹿にしてはいけない。



*−*−*

ここで販売を開始して3週間。予想以上の売り上げで、とちぎにもどってからの仕込みが免除された。数が多くて帰ってからでは間に合わないのだ。ウォール社長が仕込み専用のバイトを雇ってくれた。

きょうもあの女性が来た。黒づくめのバリキャリ女史。無表情で差し出された二つ折りのドーナツカードを開くと蛍光色の付箋紙が目に飛び込んできた。いつも彼女はそうなのだ。


「ウルトラストロングなドーナツ?」
「そうよ」
「ウルトラストロングって何ですか?」
「知らないわよ。ボスに頼まれただけだからわからないわ」
「ボス? ボスって?」
「ボスはボスよ」
「はあ」


ボスってなんだろう。ラスボス的な怪獣を思い起こした。
ラスボスドーナツ。この中ではどれが一番近いだろう。きょろきょろと目を動かす。
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