社長の甘い罠~いつしか当たり前に~ + 番外編

健人の決意

「長嶺、行くよ。」



声を掛けられた方向に振り向いた。



「長嶺、終われる?」


「奥寺、待ってて。すぐに片付ける。」


「喫煙室に行ってる。」


「わかった。」



奥寺と帰る約束をすると机の片付けを始めた。



「お先に失礼します。」



挨拶をして喫煙室に向かう。見えた喫煙室には奥寺と―――。



「社長?」



社長の姿が見える。背を向ける社長と奥寺が話しているのがわかる。


喫煙室の外で奥寺を待てば、振り向いた社長と目が合った。思わず視線を外した。



「花菜。」



喫煙室の扉が開き、社長が顔を出した。助けを求めるように奥寺に視線を移す。


苦笑いを返す奥寺が煙草を揉み消している。



「花菜。」



目の前から聞こえてきた社長の声は凄く低かった。逸らしていた視線を社長に向けた。



「花菜、迎えに行く。」


「いい。同期と飲むから。」


「場所は?」



怒りが伝わってくる。それでも拳を握り締め、社長の問いには答えない。
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