わたしは一生に一度の恋をしました
「この辺りでお祭りをやっていると聞いたけど、道が分からなくて」

「お前って藤田のばあさんの孫だろう?」

 その男性はわたしの言葉を遮ると、鋭い目つきでわたしの顔をじっと覗き込む。わたしは彼の動作に思わず息を呑んだ。

「そうだけど何?」

 わたしは彼の視線に恐怖めいたものを感じていた。

「別に。こっちだよ」

 その人はわたしに背を向けるとスタスタと歩き出した。失礼な人だと思いつつ、わたしは彼の後を追った。だが、わたしが早歩きで歩いても彼とわたしの距離は縮まるどころか離れていった。

「もう少しゆっくり歩いてくれないかな?」

 彼は振り返ると、溜め息を吐く。

「早く行かないと終わるよ。祭りっていってもたいしたことしないからさ」

 彼はわたしの頼みも無視し、先ほどと同じスピードで歩いていた。彼は立ち止まると時計に目を向ける。振り向きもせずわたしに尋ねた。

「花火と屋台しかない祭りどっちがいい?」
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