わたしは一生に一度の恋をしました
 彼はわたしの家まで来ると、わたしと視線も合わせずその場を立ち去ろうとした。

「ありがとう」

 彼にお礼を言う。わたしの言葉が聞こえているのか分からないが、彼は特別反応をするわけでもなく来た道を引き返していった。

 家に帰ると、おばあちゃんから祭りの感想を聞かれた。知らない人と一緒に森の奥に行ったとは言い出せず、途中で花火を見て引き返してきたと告げた。

 おばあちゃんはそんな話さえも嬉しそうにきいてくれた。




 翌日、おばあちゃんともお寺に行くことにした。お母さんの遺骨を引き取ってもらうためだ。

 おばあちゃんはお寺の人と話があるらしく、わたしだけ外にあるお墓にお参りすることにした。おばあちゃんはわたしにお墓の場所を教えるとお寺に戻っていった。

 わたしは抱いていた桔梗の花を崩さないように脇に抱えたまま、墓石も前で両手を合わせると目を閉じた。初めましてというご先祖への挨拶とともに、お母さんへの言葉を紡ぎ出した。

「わたし、この町で頑張るから」

 わたしは目を細め、右手を右胸に当てた。彼女の言葉は聞こえないが、彼女はわたしの決断を後押ししてくれるだろうという自負があった。彼女はいつもわたしの考えを優先してくれてたためだ。

「ほのかちゃん、おばさんと一緒に来たの?」

 呼び止められ、振り向く。そこには千恵子さんが立っていた。彼女は白のシャツに黒のパンツを履いていた。墓掃除をしていたのか、箒とちりとりを手にしていた。
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